赤い文字の前で、指が浮いたまま動かない。本当に削除しますか。3年使ったアプリの最後の画面は、拍子抜けするほど静かでした。
まず手順から。3分で終わるアカウント削除の流れ
アプリ内の設定から削除、画面はこう進む
プロフィールのアイコンをタップして設定を開き、いちばん下までスクロールするとアカウント削除の項目があります。押すと理由を聞かれ、途中で一時的に休む選択肢を勧められますが、消すと決めたなら削除を選んで確認すれば完了。私の場合、ここまで3分かかりませんでした。最後にすっと画面が暗転して、黒い鏡に自分の顔だけが映る。
アプリにログインできなくなって削除できない人は、ブラウザからTinderのアカウント管理ページに入る道が残っているので、そちらから手続きしてください。
アンインストールは家出、削除は退去手続き
ここがいちばん多い勘違いです。ホーム画面でアプリを長押しして消すのは、ただのアンインストール。部屋を残したまま家出しているだけで、あなたのプロフィールは今夜も誰かの画面に流れ続けます。
21歳の大学生は、親に咎められて慌ててアプリだけ消し、数週間後に届いたメールで自分がまだそこに住んでいたと知りました。別の24歳の男性も、消したつもりのアカウントから通知が来て青ざめたと話しています。退会とは、部屋を引き払って鍵を返すこと。アプリ内のアカウント削除まで進めて、初めて退去が成立します。
有料プランの解約は別の建物にある
実は、アカウントを削除しても課金は止まりません。PlusやGoldの支払いはAppleやGoogleの定期購入として動いているので、解約はストア側で行う必要があります。iPhoneなら設定アプリの自分の名前からサブスクリプションを開いてTinderをキャンセル、AndroidならPlayストアの定期購入から。
退会したのに毎月引き落とされるという嘆きの大半は、この建物違いが原因です。残り期間の返金はないため、更新日を確かめて、解約を先に、削除を後に。順番だけは間違えないでください。
削除ボタンを押す前の30秒チェック
操作は簡単。だからこそ、押す前に確かめたいことが二つだけあります。
マッチもメッセージも戻らない、削除は一方通行
一度削除したアカウントは復活できません。マッチの一覧も、積み上げたメッセージも、課金で得たものも全部消えます。やり取りを続けたい相手がいるなら連絡先を先に交換しておく、プロフィール文を使い回したいならメモに残しておく。この二つを済ませてからボタンを押せば、後悔の芽はほぼ摘めます。戻れると思い込んで消した人の話は、後ほど。
休みたいだけなら表示オフという中間がある
疲れただけで、辞めたいかどうかは分からない。その状態なら、設定から自分のカードを表示されないようにする方法があります。新しい人の画面に出なくなるだけで、データは無傷のまま眠らせておける。就活や繁忙期で離れたい人には、退去より留守がちょうどいい場合もあります。削除は、戻らない覚悟が固まった日のための最終手段です。
取材で聞いた、削除した夜のそれぞれの理由
手順の次は、心の話。削除を経験した男女に、あの夜のことを聞きました。名前と年齢は変えてあります。
疲れて消した人たち
27歳のイツキさんは、何十人と会っても同じような会話と浅い関係が続き、心が満たされるどころか空洞が広がる感覚に1ヶ月で耐えられなくなったと言います。
30歳のノゾミさんは、ドタキャンの連続でアプリを開く指が重くなり、現実の出会いに戻ると決めて削除。28歳のカイトさんの場合は依存の方でした。眠る前のスワイプがやめられず、睡眠時間が削られ、仕事中にまぶたが落ちる。
これ以上は生活が壊れると、布団の中で削除ボタンを押したそうです。遠距離のマッチばかりで消耗した人、就活に集中したかった学生。疲れの形は違っても、消した瞬間に肩からふっと何かが降りた、という感想は驚くほど重なりました。
怖くなって消した人たち
25歳の女性は、待ち合わせ場所に立った直後、相手とのマッチが解除されていることに気づきました。雑踏の中で腕にぞわりと鳥肌が立ち、その場でアプリごと信用できなくなったと言います。
28歳のミクさんは、既婚者を疑う相手との消耗戦の末に削除を決意。アプリを消しただけではアカウントが残ると知り、設定から正式な手続きまでやり切ったのは立派でした。露骨なメッセージに嫌気がさして、課金の残り期間ごと捨てた32歳の男性もいます。心がすり減る場所に、義理立てして居続ける必要はありません。
卒業として消した人たち
明るい削除もあります。29歳のリョウさんは、付き合いたいと思える人と出会えた夜、相手と申し合わせてその場で同時にアカウントを消しました。「せーので消したんですよ、僕ら(笑)」と照れていましたが、お互いの本気を確かめる儀式として、これ以上のものはない。マッチした相手と5時間話し込み、恋愛とは別の仕事のつながりまで生まれて満足して去った26歳の女性もいました。目的を果たした道具を手放すのは、敗北ではなく卒業です。
削除したあとの世界と、再登録の現実
消した先のことも、正直に書いておきます。
再開はいつでもできる、ただしゼロから
削除後の再登録に待機期間はなく、アプリを入れ直してアカウントを作ればすぐ始められます。ただしデータは何ひとつ引き継がれません。24歳のソウタさんは、消しても何か戻るだろうと軽く考えて削除し、再登録の画面で真っ白なプロフィールと対面して固まったそうです。一から書き直し、マッチもゼロから。戻る可能性が少しでもあるなら、文面の控えだけは残しておくべきでしょう。
消して作り直すを繰り返すと起きること
リセット目的で削除と新規作成を繰り返した31歳の女性は、回を重ねるごとにマッチが細り、最後はほとんど誰にも届かなくなった気がすると話していました。短期間の作り直しは不審な動きと見なされ、強制退会につながる恐れが案内されています。表示が極端に絞られるペナルティの存在もささやかれますが、確かめようはありません。確かなのは、リセットの乱用が得をした例を取材で一件も聞けなかったこと。消すなら、戻らないつもりで消す方が結果的に綺麗です。
通知が消えた生活で起きた変化
私自身、削除した最初の夜は静けさに耳が慣れませんでした。あの音のない時間に、読みかけの本が一冊片づいた。
27歳のイツキさんは削除後に始めた趣味のサークルで気の合う人に出会い、29歳のハナさんは消した直後に未練が湧いて再登録したものの、まっさらな状態が逆に新鮮で前より楽しめていると言います。削除は終わりの形をした再起動なのかもしれません。
鍵を返すように消せば、後悔は残らない
アンインストールは家出、アカウント削除は退去、ストアの解約は精算。この三つを区別して、精算、退去の順で進めれば、Tinderはきれいに離れられるアプリです。連絡先とプロフィールの控えという荷物だけまとめて、あとは鍵を返すだけ。疲れて消すのも、怖くて消すのも、卒業で消すのも、全部まっとうな理由でした。画面の前で指が浮いているあなたの夜が、どうか軽く明けますように。

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